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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)5800号 判決 1972年1月25日

被告 同栄信用金庫

理由

一  《証拠》によれば、訴外麻布自動車整備株式会社は昭和四四年七月二五日現在、昭和四〇年度ないし昭和四二年度末までの源泉所得税の本税並びに加算税、延滞税合計金三九六万五九〇四円の滞納租税債務を負つていること、右のうち法定納期限が昭和四一年一〇月一八日までの租税債務が別紙租税一覧表該当欄記載のとおり合計金一五八万三九三三円、同日以降同年同月三一日までの租税債務が合計金五一万七八九二円であることが認められ、麻布税務署長が右租税債権を含む税金徴収のため、原告主張の日に、その主張の不動産につき差押をなし、その旨の登記を了したことは被告の認めて争わないところである。

二  他方、本件不動産に対しては、麻布自動車整備株式会社を債務者として、原告主張の強制執行による競売手続が開始され、被告の申立にかかる任意競売事件が右記録に添付されその後原告主張のとおり強制競売開始決定が取消されたので、右任意競売手続が続行となり、配当手続が実施され、右任意競売事件が終了したことは当事者間に争いないところである。そして《証拠》によれば、麻布税務署長は右強制競売手続進行中、昭和四二年四月二四日到達の差押通知書及び交付要求書をもつて執行機関である東京地方裁判所に対し、別紙租税一覧表記載の各本税、加算税及び一部延滞税の通知をなしたこと、その成立に争いない《証拠》を総合すれば、続行された前示任意競売事件において昭和四四年七月二五日に指定された配当期日において別紙交付金計算表B欄記載のとおり、本件不動産売却代金の交付があつたことが認められる。

三  原告は右配当は、被告の債権に優先すべき国税に対する配当をなさない不当のものであると主張するので判断するに、原告主張の源泉所得税等の法定納期限が別紙租税一覧表記載のとおりであることは前段認定のとおりであり、被告の請求債権を被担保債権とする抵当権設定登記の日が別紙抵当権目録記載のとおりであることは被告の認めて争わないところである。

しからば、原告主張の別紙租税一覧表記載(1)ないし(7)記載の各租税債権は、被告の別紙抵当権目録(1)、(2)の抵当権付債権に対し弁済順位が優先し、別紙租税目録(8)の債権は、被告の別紙抵当権目録(1)の債権には遅れるが、(2)の抵当権付債権には優先し、結局、原告、被告の交付を受くべき金額は、交付金計算表A欄記載のとおりになるべきことは明らかである。

四  被告は、仮りに別紙交付金目録B欄記載の金額に誤りがあるとしても、原告は不当利得の請求はできないと抗争するので判断する。

本件任意競売事件について配当期日の指定があり、出頭した原告職員が作成された交付金計算表についてなんら異議の申立をなさなかつたことは弁論の全趣旨からこれを認めることができる。

当裁判所は、任意競売事件においても、配当期日が実施された場合、期日の懈怠または異議申立をなさなかつたことにより、優先権主張の訴が許されなくなるものと考えるが、そのため配当表が確定して、不当利得返還請求まで許されなくなるとの被告の主張には左袒できない。

金銭債権に基づく強制執行における配当手続においては、民事訴訟法第六三〇条第一項、第六三二条第一項の適用及び同法第六三四条の裏面解釈からすれば、配当期日に不出頭の債権者、又は右期日において異議を述べなかつた債権者は、担保権を有するものの場合は別として、配当表を承認したものと看做され、配当表は確定し、後日右表に誤謬があるとして優先権を主張することは許されず、したがつて、また、右誤謬に基く不当利得返還請求も許されなくなるものと解するのが相当である。しかし任意競売における換価弁済は、強制執行の場合と異なり、特定物件の交換価値に対する実体法上の支配権能に基くもので、その実現手続と解され、本来改めて債権額を手続上確定することは予想していないものと言わなければならない。競売法第三三条「残余金ハ」「之ヲ受取ルベキ者ニ交付スルコトヲ要ス」と規定するのみで、実体法上弁済を受けるべき者に代金を交付すべきことを規定しているのみで、弁済を受けるべき者の確定手続交付手続については、なんら触れていないものといわなければならない。したがつて実体法上権利ある者の権利を喪失させ、又は実体法上権利なき者に権利を確定することとなる前示解釈は、任意競売手続の性質に反するものといわなければならない。

よつて被告の抗弁はいずれも肯認できない。

四  以上のとおりであるから、結局被告は本件配当手続により交付金計算表末尾欄記載の金二一〇万一八二五円を不当に利得したこととなり、その返還を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容

(裁判官 小河八十次)

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